植木 久彦

アスフィ国際特許事務所所長。弁理士。
人材は社会全体の財産なので、所員の成長につながる退職は応援したいと考えている。

田中 真也

2011年にSEとして入社。在籍中にプライバシーマーク審査員を始め、2015年に退職。現在は財団法人にて審査員のリーダーを務める。

離れた場所からアスフィがどう見えるのかを知りたい

植木

在籍中の所員は事務所の環境に慣れていて当たり前になっているので、所員インタビューだけでは、アスフィの実情やイメージを求職者に伝えきれないと思ったんです。アスフィから卒業した人の目線で、田中さんには、離れたところから客観的にアスフィを見て気づいたことや、他社と比較して「ここが違う」という点があればぜひ教えてほしいですね。

田中

私も当時は当たり前だと思っていましたが、退職して数年経った今、振り返ると、アスフィには、知識が豊富で有能な所員が多かったと感じます。加えて、所内の風通しが良いのも特徴ですね。意見や頼み事をすると、すぐに誰かからレスポンスが返ってくるんです。また、所長に対しては予算的に通すのが難しい提案をしたこともありましたが、門前払いせず、説明を最後まで聞いた上で、できる範囲でアドバイスをしてくれました。非常に仕事のしやすい環境だったと思っています。

植木

なるほど。全体的に人柄の良い所員は多いよね。ほかの所員が困っていたら、率先してサポートしているし。

田中

そうですね。プロとして尊敬できる所員が多くて、一緒に働けることが素直にうれしかったです。だから私自身も「この人たちと同じレベルでいるためには、真剣に仕事と向き合わなければ」という思いで働いていました。

在籍中はSEの職務にとどまらず、事務所内の環境改善に尽力

田中

社内SEとして業務システムを管理するのがメインの業務でした。弁理士の業務の1つである期限管理(特許申請が完了するまでの手続きを期間内に行うための管理)の仕組み作りも担当していました。
ほかに、社内業務のデジタル化に向けて、システムや機器の見直しをするというミッションもありました。具体的には、複合機を新しいものに変えたり、システム内の全ての情報資産を洗い出して適切な場所に配置換えしたり。所員の要望に応えて、新たな機器やツールを導入するのも業務の1つでした。

植木

でも実は、田中さんといえば真っ先に思い浮かぶのは、パソコンに向かってプログラミングしているSEらしい姿ではなくて、歩き回っている姿なんです。私の記憶の中では、社内にいる時間の8割は歩いていたイメージ(笑)。

田中

社内を回ってトラブル探しをしていたんですよね。社内SEの使命は所員がスムーズに仕事を進められるようにシステムやソフトウェアを整備することですが、所員の中には、わからないことがあっても誰にも頼らずに自分で解決しようとする人もいます。そこで、自ら皆に困っていることはないかと質問をして回って、情報収集していました。もし複数の所員が同じトラブルに直面していたら、それがSEとして解決すべき課題だとわかりますから。

植木

思えば田中さんは、システムとは関係ない業務にも積極的に関わっていました。社内清掃のために、予算の範囲内でロボット掃除機を導入してくれたことも。

田中

入社したとき、サーバー室がけっこう奥にあるのが気になって。人の力だけではどうしても見落としや手が回らない部分があるので、試しに自動で掃除できるロボットを入れてみてはどうかと考えました。今でこそペーパーレス化が進んでいますが、当時の特許事務所は紙を使う機会が多かったので、紙屑も多かったですしね。

植木

そんなことまで考えてくれてたの笑。先ほどほかの所員と同じレベルでいるために真剣に仕事と向き合っていたという田中さんの言葉を聞いて、本来のSEの職務を超えて動いてくれたのも、根本にそういう思いがあったからなのかと気づかされました。
田中さんは有能なSEでしたが、抜けているところもあって、彼が最初に出してくる提案にはミスもけっこうありました。でも、彼の持ち前のコミュニケーション力や仕事への意欲的な姿勢は、そんな多少の欠点を補って余りある長所だと思っています。

田中

私の提案に対して、上司や同僚が厳しくチェックしてミスや甘い部分を指摘してくれるのはありがたかったですね。自分1人で考えて進めるだけでは、自己満足に陥ってしまうので。

植木

田中さん自身が誰に対しても壁を作らないし、誰からの相談にも快く対応していたから、所員全員が彼に対して心を開いていた印象があります。当時、田中さんにとって苦手な所員は1人もいなかったのでは?

田中

たしかにそうかもしれませんね。

業務を通して情報セキュリティに興味を持ち、
プライバシーマーク審査員の道に

田中

明確に退職理由があったわけではなく、流れで退職することになったという感じです。発端は、業務上のトラブルがあり、クライアント企業からその原因の調査と報告を指示されたことでした。その企業の担当者がISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得に関わっている方だったのです。以来、今後トラブルを未然に防ぎ、顧客の要望に応えていくためには、情報セキュリティの仕組みやISMSについての知識を身につける必要があると考えるようになりました。
そんなときに、ISMSと同じ情報セキュリティに関する制度であるプライバシーマーク制度(事業者が個人情報保護の取扱いを評価する制度)の研修が東京で開催されることを知って、まずは受けてみることにしました。

植木

東京まで行ったんだ?けっこう自己投資するよね。

田中

はい。ゴールデンウィークを使って5日間の研修を受けました。残念ながらその研修では求めていた知識を得ることはできなかったのですが、研修で知り合った方から、事業者がプライバシーマーク制度の基準を満たしているかどうかを審査する仕事があることを教えてもらいました。その仕事をすれば求める知識を得られると思い、審査員研修を受けて審査員をやってみることに。その際に紹介されたのが、今勤めている財団法人でした。
最初は副業のつもりでしたが、実際に審査員を始めてみると、兼務は難しいと気づいたため、職場(アスフィ)に相談して、所員ではなく個人事業主としてアスフィから業務委託を受けて働く形にしてもらいました。しかし、次第に審査員の仕事が多忙になり、最終的には審査員一本に絞ることにしました。これが主な退職理由です。
ちょうどその頃、SEとしてアスフィで勤務する中で、自分に業務に関する体系的な知識が不足していることが気になっていて。より適任の誰かにバトンタッチするタイミングだと感じていたことも、退職理由の1つと言えます。

植木

当時は退職の理由や経緯を今聞いたほど詳しくは理解していませんでしたが、彼はより広いフィールドで、彼の能力を伸ばす何かに出合えたに違いないと思いました。もし田中さんが、もっと内向的で、黙々とプログラミングだけに集中するタイプのSEだったら「今から転職して大丈夫なのか?」と言って引き留めていたかもしれません。
でも彼はコミュニケーション力が高く、顧客の要望を聞いて対応する営業的な仕事もできるタイプなので、あまり心配はしませんでしたね。それに、一度決めたら貫く性格だと知っていたから、引き留めても無駄だろうなと(笑)。

田中

しばらくは後任者への引き継ぎがうまくいったかどうかが気になっていました。といってもアスフィでは、退職前に後任者の採用にも関わらせてもらい、優秀な人にお願いすることができたので、大きな不安はなかったのですが。
実は離れてからも、よくアスフィ時代のことを思い出してはHPを覗いています。「新しい人が入ったんだ」などと思いながら見ていますよ。

アスフィで培った能力が、その後のキャリアの幅を広げてくれた

田中

法人内のプライバシーマーク審査員たちをまとめるリーダー的な立場です。事業者の個人情報保護体制を審査するにあたっての方針を決めたり、顧客から「こんなふうに個人情報保護に取り組んでいきたい」という要望があった場合に対応を考えて答えたりするのが主な業務内容です。

植木

今は複数のメンバーをフォローしながらマネジメントしなければいけない立場。多様な業務を担当していたとはいえ、あくまでSEだったアスフィ時代の立場とはだいぶ違うね。

田中

特に目指していないのに、気づいたらそうなっていたんです。財団法人に入ったときは、システム関連の審査の仕事を何件かこなせばいいのかと思ったのですが、次第に業務範囲が広がり、審査員から主任審査員になって、最終的に今の立場になりました。
今はシステムにはあまり触っていませんが、プライバシーマーク制度の審査業務の中にシステム監査もあるので、SEだった頃よりシステム関連の知識は増しています。

植木

まさにその通りだと思います。田中さんはたまたまそうなったかのように言っていたけど、彼がどんどん成長しているから、成長度に合わせて業務範囲が自ずと広がっていったのではないかと。

田中

現職では、膨大な文章を端的にまとめて相手に伝える能力が必要なのですが、アスフィ時代にそれを身につけていたことが、ほかの審査員と比べると有利だったと思います。
弁理士の仕事には文系と理系の両方の要素が必要で、理系の知識だけでは文章が書けないし、文章力があっても理系の専門的な知識がなかったらできませんよね。私はSEとしてアスフィに入りましたが、弁理士たちとともに働き、多様な業務に携わりました。特に国内事務関連の広報物を作成する仕事に関わったときに、文章をまとめる能力が自然に身についたようです。

植木

あのときの経験が後に役立ったわけやね。田中さんが言う通り、特許事務所の仕事にはもちろん理系の知識と文章力が必須ですが、そのほかに、コミュニケーションを通じて人に伝える能力も求められます。田中さんが退職後に活躍の場を広げていくことができたのは、アスフィ在籍中に、顧客が求めていることを汲み取って、的確な回答や解決策を相手の心に届く言葉で伝えられるようになっていたからでは。退職して、その能力がいっそう高まったなと感じています。

所員は社会から預かった財産。卒業後の人生も応援したい

田中

退職までのやりとりもスムーズでしたし、お互いに納得した上で次に進めたからではないでしょうか。私としては、アスフィに在籍していた間は全力で業務に取り組めたので、ある程度やりきった感がありました。しかも、その後のキャリアでもアスフィでの経験を存分に活かせているので、今のところ全く不満はありません。まさにポジティブな退職だったと感じています。

植木

私は、所員は社会から預かっている貴重な財産だと考えています。もちろん、田中さんのような業務を根幹から支えるシステムの担当者に辞められるのは、所長としては困りますよ。
でも、アスフィの業務を通して成長した人を、いなくなると自分たちが困るからという理由で既存の枠の中に押し込めたら、その人がこれ以上成長できなくなってしまう。だから、ほかに目標ができた所員は快く送り出して、その後のキャリアはもちろん、人生も応援したいです。アスフィにいても他社にいても、所員が充実した人生を歩んでいることが最も喜ばしいことだと思っています。

田中

特許事務所の所員のように、理系の知識と文章力の両方を備えている人材は非常に貴重です。今携わっているプライバシーマーク制度の審査の仕事にも理系の知識と文章力が必要なので、いつかアスフィのメンバーと、何らかの形で一緒に仕事をできたらと願っています。

植木

田中さんはアスフィのことを深く理解してくれている人の1人。システム関連に限らず、今後、業務に関する困り事が生じたら、ぜひ相談に乗ってほしいですね。彼ならアスフィを外から見て「この部分が弱いから、補強したほうがいい」といった率直な意見やアドバイスをくれるのではないかと期待しています。

退職後も良好な関係を築き、つながり続けているのもアスフィだからこそですね。
これからも田中様は何らかの形で、アスフィに関わり続けてくれることと思います。
お二人ともありがとうございました。

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